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アネックスライブラリ企画展「東スラヴの言語と文化」

「東スラヴ」を知ろう

「東スラヴ」ということばを、聞いたことがあるでしょうか? 「東スラヴ人」というのは、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人といった、「東スラヴ語」に分類されることばを話す人たちのことで、「東スラヴ地域」と言うときには通常、現在のロシア、ウクライナ、ベラルーシにあたる地域を指しています。
2022年2月に始まったロシア軍によるウクライナ侵略は、世界中に大きな衝撃を与えています。このウクライナ侵略という世界的事件を受けて、私たちにできることは、学ぶことであり、考えることです。そこで、書籍の紹介を通して、東スラヴの言語と文化を知ってもらうため、この展示が企画されました。
なぜ戦争は起こるのか。戦争に対する様々な反応や感情を、どう捉えればいいのか。文化や言語はいかに政治と関係しているか。
2022年4月7日から7月4日まで開催された、アネックスライブラリ春の企画展「東スラヴの言語と文化」では、その探究の旅のお伴になるような書籍と映像作品を紹介しました。


国際学部生からのおすすめの一冊

国際学部3年(複言語・複文化学専攻、異文化コミュニケーション専修)の師橋こころさんによる、ウクライナ出身の作家ゴーゴリによる作品についての紹介文を以下に掲載いたします。

『外套・鼻』 ゴーゴリ作 平井肇訳 岩波文庫
この文庫本は『外套』と『鼻』という2つの短編から構成されている。なので、ロシア文学ってなんかとっつきにくい、難しそう…というイメージがある人でも読みやすい作品になっていると感じた。

『外套』
あらすじ:
主人公のアカーキイ・アカーキエヴィッチは、役人ではあるが九等官と位が低く、顔には薄痘痕と小皺があり、髪の毛は傷んで少し禿げあがって、眼はしょぼしょぼしていて…、と所謂さえない中年男性である。そんな彼は周りの上司や同僚、部下から敬意を払われず、からかわれながらも、業務である公文書を清書することを愛しながら生活を送っていた。
仕事中心の生活をしていた彼の外套はボロボロで、修理すら出来ないほどになったため、ついに新調することになる。仕立て屋のペトローヴィチが提示した金額は80ルーブル。アカーキイ・アカーキエヴィッチにとってはとてつもない大金だった。貯金を崩し、節約生活を余儀なくされた彼だったが、その生活は次第にお金を工面する苦しさから新しい外套が手に入るという喜びと高揚に満ちていった。どこかからっぽだった彼が、外套がきっかけで充実した人間になっていたのだ。外套が届いた日、それはもうるんるんで、周りの役人たちも喜び、なんとパーティまで開くことになる。しかし、満ち足りた日々は長くは続かない──。
感想:この作品は、ドストエフスキーなどのロシア文学作家や芥川龍之介に影響を与えたといわれている。始めは、さえない中年男性の話…?面白いの?という気持ちで読み始めた。しかし、読み進めていく内に、アカーキイ・アカーキエヴィチの真面目さや外套を新調するシーンのワクワクさに引き込まれていった。特に、仕事をすることしか生きがいがなかった彼が、外套をきっかけに人が変わったように浮き足だっていくという前半と後半の対比は読んでいてとても面白い。そんな彼がどんな結末をたどるのか、ぜひ一度読んでみてほしいと思う。

『鼻』
あらすじ:
理髪師のイワン・ヤーコウレヴィッチは、朝食に焼きたてのパンを食べることにした。
パンをナイフで真っ二つに切り割ってみると何かが入っている。指を突っ込んで摘みだしてみると───鼻だ。鼻が入っていた。なぜ鼻がパンの中に?意味がわからない。そもそも誰の鼻なんだ?慌てたイワン・ヤーコウレヴィッチは突然現れた鼻をどうにかするべく街へ出掛けていく。
場面は打って変わって八等官のコワリョフの家。眼が覚めたコワリョフが昨日鼻にできたニキビを確認しようと鏡を見ると───鼻がない!何度触っても鏡を見ても鼻だけきれいさっぱりなくなっている。鼻を探しに街に出ると、彼はある家の前で立ちすくむ。自分自身の鼻が自分よりも身分の高い服を着て出てきたのである。もうさっぱり状況がわからない。しかし自分の鼻を求めてコワリョフは動く。
イワン・ヤーコウレヴィッチは鼻を一体どうしたのか、果たしてコワリョフの鼻は無事顔に戻ってくるのか───。
感想:もし自分が食べようとしていたパンに鼻が入っていたらどうしよう…。とつい謎の不安が広がってしまうこの話。シュールという言葉で収まらないほどのシュールさを放っている。短編ながらも主人公が切り替わっていく三部構成となっていて、様々な視点から物語が形作られている。鼻の行方が気になったら、シュールを超えるシュールを体験したいと思ったらぜひ読んでみてほしい。

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